|
むかし昔のこと。
中野のお大尽どんの家によく働く若い作男がいました。
皆から「おどぼう、おどぼう」と呼ばれかわいがられていました。
おどぼうは同じ村の「およね」という気立てのよい娘といい仲になっていました。
ところが、お大尽どんの家の息子がこのおよねを見染めてしまいました。
およねの家はお大尽どんから田畑を借りて暮している小作で、嫁の話を断わることが出来ません。
むしろ玉の輿と喜ぶ者もいました。
秋の取り入れが済んだら、およねはお大尽どんの家に嫁に行くことに決まりました。
嫁入りの日が近づくにつれて、おどぼうもおよねも、すっかり元気がなくなってしまいましたが、周囲は2人の仲を知らなかったので元気がないことにも気がつきませんでした。
ある秋の夜、およねは山奥の池に身を投げて死んでしまいました。
皆はなぜおよねが死んだか訳が分かりませんでした。
おどぼうは、皆の前では普段通りに振るまいましたが心の中は悲しくてたまらず一人いnなると泣いていました。
それから一年ほどたったある日のことです。
おどぼうがその池のそばの田で仕事をしていると、太さが親指ほどもある赤っぽいどじょうが出て来ました。
珍しいので捕まえて、エラから口に芽の葉を通して水たまりにつけておきました。
夕方になり、おどぼうが帰ろうとした時、
「おどぼうー。おどぼーうよぅ」
と、呼ぶ声がしました。
おどぼうは昼間に捕まえたどじょうが呼んでいるような気がして、
「おお、そうだった。可哀想なことをしたなぁ」
と、池に放して、それから再び帰ろうとしました。
すると、また、
「おどぼうよぅ。おどぼうーよぅ」
と池の底から声が聞こえました。
それは、およねの声とそっくりでした。
「およね!」
そう叫ぶと、おどぼうは夢中で池の中へ飛びこんで、そのまま二度と浮いては来ませんでした。
それ以来、村の人たちこの池を「おどぼう池」と呼ぶようになりました。
|