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昔、昔のお話しです。下総の原っぱに大きな沼がありました。その沼には主の大蛇が住んでいました。その大蛇が、村の娘を見染めてしまいました。
こらえきれなくなった大蛇は、いい男に化けて祭りの晩にその娘に言い寄ってみました。
村には珍しいあか抜けた男だったので、娘もすっかり身も心もトロンとなってしまいました。
そういうわけで、二人はいい仲になって、とうとう娘は身ごもってしまいました。
これには、父も母も驚きましたが、もうどうにもなりません。
十月十日がたって玉のような男の子が産まれました。
ところが不思議なことに、この子の首筋には蛇のウロコが一枚、アザのようにくっついています。
このウロコのようなアザは、どうしても取れません。
家の者は、村人たちにアザを隠して赤ん坊を育てました。
「小太郎」と名付けられたその子は、ずんずんと育ち、やがて村一番のガキ大将になりました。
ケンカをしても、かけっこをしても誰もかないませんし、下手をすれば大人だって力負けしてしまうほどです。
「小太郎は、そこらの並の人間とはちょいと違うぞ。あれは何の生まれ変わりかなあ。」なんて、ウワサされるようになっていました。
月日が経ち、小太郎は立派な若い衆になって百姓をつぎました。
ある年、このあたりの村々を日照りが襲いました。
来る日も来る日も雨乞いの火を燃やし、坊さんや神主に拝んでもらいましたが、空には雲の1カケラも出て来ません。
一年目の夏は、沼や川から水を汲んでしのげましたが、二年目には水も沼や川の底の方に少ししかなくなってしまったので、汲み上げるのも簡単にはいきません。
それでもみんなで力を合わせ、なんとかしのぎきりました。
しかし、三年目も大日照りとなってしまうと、畑の菜っぱも、田んぼの苗も、しおしおと黄ばんで枯れてしまいました。
沼や川も干上がり、草の根も木の芽も食い尽くし、村には食べる物がなくなってしまいました。
村人たちは話し合い、何とかお城の米蔵を開けてもらえないかお願いしてみようということになり、村々の名主や、村役が殿様にお願いに出向きました。
しかし何度行っても、
「何をいうのじゃ。年貢を減らしてやっただけでもありがたいと思うがよい。」
と、家老にひどく怒られて、スゴスゴと村へ戻って来るだけです。
「そんじゃ、しょうがねえよ。みんなでお城にお願いに行ってみべえ。」
「おお、そうしべえ、そうしべえ。」
しょうがないので、みんなでゾロゾロとお城へ押し寄せました。
「けしからん百姓どもじゃ。」
しかし、カンカンに怒った殿様は、村々の名主を牢屋に入れてしまいました。
「名主どんが、とっつかまっちゃった。あじょしたば(どうしたら)いいっべよ。」
「だかん、言わんこっちゃねえだよ。殿様は、おら達のいうことを何一つ聞いちゃくれねえだからなあ。」
「こうなりゃ、一家で夜逃げして、もっと暮らしやすい所へ行くしかねえなあ。」
村々の百姓達は、ぶつぶつと不満を口にしながら引き上げました。
「このままじゃ、村の者達は飢え死にするか、夜逃げするしかねえぞ。何とか、お城の米を分けてもらって、食いつながねばならねえ。そのうちに雨も降ってくれるに違いねえ。」
小太郎は、布団にくるまって、一晩中考えに考えぬきました。
一番鶏が鳴いて、二番鶏がコケコッコーと長く鳴きました。
「そうだ。これしかねえや。」
三番鶏が鳴きました。
村の若い衆達をコッソリと呼び集めて何やら相談しています。
そして、仲間達は、村々に散らばって行きました。
その日の真夜中のことです。
産土様の森やお寺の境内に大勢の百姓達が集まって来ました。
みんな手に手にナタ、カマ、竹ヤリ、芋掘り棒などを持っています。
これから命懸けの大仕事をするのです。
みんな体の震えが止まりません。
小太郎の合図で、みんなはお城を目指して真っ暗闇の中を歩き出しました。
お城に着くと石垣に縄ばしごがかけられました。
身軽な若い者が四、五人、するするヒョイと石垣を乗りこえて、お城の中に消えました。
しばらくすると、お城のあちこちから火の手が、ぼうぼうと上がりました。
それを合図にみんなは表門と裏門に押し寄せました。
ドスーン、ドスーンと、かけ矢で城門を打ち壊すと、ときの声を挙げて、お城の中に走り込みました。
お城をかためていた侍達は、寝ぼけまなこで火事に気をとられていたので、力の強い百姓達に押しまくられて、手出しも出来ません。
その間に米蔵を開いた百姓達は、
「よいしょ、よいしょ」
って勢いよく米を運び出しました。
今まで威張りちらしていた殿様は焼け死に、生き残った侍達は散り散りバラバラになり、どこかへ落ちのびて行きました。
村々では、お城から運び出した米で何とか食いつなぎ、百姓仕事にも精を出しました。
そのうちに大雨が降り、田畑は潤い、飢え死にする者は一人も出ませんでした。
小太郎は村々の者達から「命の恩人」と、ありがたがられました。
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