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川べのお春は
どこへ行った
おっかあにもらった ぼっくり (下駄)持って
チロリン チロリン
鈴ならせ
今泉へ守っこに行った
守っこは つれえぞ
朝は四時おき
昼は むずかるねんねの守っこ
夜は 夜なべを遅くまで
それで
お春の目は しょぼしょぼだ
昔の話しです。
むしろ敷きの床に、ちょこりんと座った十のお春に、母が言いました。
「お春よ。おらが何しろ貧乏だ。田も畑もみんな大尽どんのもんだ。朝は日の出ねえうちから、夜は星が出るまで汗水たらして泥んこになって仕事しても、暮らしは、ちっとも良くならねえだ。それにお父も無理がたたって寝込んでしもうた。それにまだ、小せえお咲や作次、それから赤ん坊の吉三もいる」
お春は、ちょこりんとうなずいて、母のあかぎれだらけの手を見ていました。
「お春よ。おめえは、兄弟の一番上だから、隣村の大尽どんへ守っこに行ってくれねえか」
いつもは口の重たい母が、ひと息にこう言いました。
お春は、ちょこりんとうなずいて、大きな声ではっきりと、
「おら、守っこに行くよ。お父の病が治るまで何年でも行ってるだ」
と言いました。
おっかあは、ほっと笑い顔になりかけ、その顔は、そのまま泣きっ面になってしまいました。
その晩も、母の夜なべ仕事のむしろ織は、
ガタッガタッ、ガッターン、ガタッガタッ、ガッターンと真夜中まで続いていました。
守っこの仕事はつらいものです。
みんなの目の覚めないうちに起きだして、かまどの飯炊き、湯沸かし。
みんなの朝飯が済むと、急いで尺庵こうこのお茶漬けをかきこんで、後始末。
むずかる赤ん坊をあやしながら洗濯、拭き掃除。
そして、昼飯、晩飯の支度やら風呂もしと、体がいくつあってもたりないほどです。
「お父の病が良くなるまでは…」
お春は、涙をこらえて、歯を食いしばって頑張りました。
一年がたち、二年がたち、三年目の冬のことです。
旦那が仏壇の奥にしまっておいた金がなくなってしまったというのです。
奉公人たちは順ぐりに調べられましたが、誰も、
「知らねえ」と言っています。
お春が旦那とおかみさんの前に出る番です。
「お前の家は、えらく暮らしに困っているからな。すぐに白状して金を出せば、今度だけは堪忍してやってもいいぞ」
って、何度もしつこく言われましたが、お春は、
「知らねえもんは、知らねえ」と首を振りました。
その夜のことです。
お春は、みんなが寝静まるのを待って、そっと屋敷を抜け出しました。
ふところには、七つの祝いに買ってもらった大事な大事な赤いぼっくりを抱いています。
真暗やみの田んぼ道を、
「おっかあよう、お父よう!」
と、心で叫びながら走りました。
転んだり、水たまりに落ちたりしながら、村境の橋を渡り…。
まだ、守っこになってから、一度も戻ったことのない家に向って走り続けました。
しかし、懐かしい家の前に立ってみると、お春には、
「おっかあ、お父。今、戻った」
とは、言えませんでした。
奉公の金は、前払いでもらってしまっているのだから、お春が戻って来れば返さなければなりません。
それは、出来ませんでした。
いつの間にか、さっき夢中で渡った村境の橋の上に立っていました。
ふところのぽっくりの鈴の音が、小さくひそかに、
チロリーン、チロリーン、と鳴っていました。
ザッパーン!
お春はどうしたら良いものか自分でもわからなくなって、川の中に身を投げてしまったのです。
今でも、この橋を渡る時、耳をすますと、
チロリーン、チロリーン
と、ぽっくりの鈴の音が聞こえてくると言われています。
だから村人たちは、この橋を「チロリン橋」と呼ぶようになったそうです。
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